Open-Back Wind Jacket 開発ストーリー
by Shingo Numata

2026年秋、MUNIEQから全く新しい構造を持つウインドジャケット「Open-Back Wind Jacket」を発売した。その名のとおり、「背中が開いた」ウインドジャケットだ。
きっかけは肌寒い晩秋のトレイルランニングレース

樹林帯から風が吹き抜ける牧草地と体感温度が目まぐるしく変化するコンディションの中、僕はウインドシェルの着脱を繰り返した。その度に足を止める必要があったので、次第に着脱にストレスを感じるようになっていた。そこで僕はウインドシェルを「後ろ前(うしろまえ)」にして、ザックを背負ったまま袖だけを通して羽織るようにした。

レース後半となると、疲れた体で腕を大きく後ろへ回し袖を通すだけでも一苦労だ。後ろ前の着脱のしやすさは圧倒的で、防風というウインドシェルとしての基本的な機能にも問題はなかったが、フロントポケットやドリンクボトルにはアクセスし難く、不便さが残った。
ここから、開発が始まった。
後ろ前の後ろが前
考え方は「後ろ前(うしろまえ)の後ろを前にしてしまおう」ということだ。
レースから戻ってしばらくしてから僕の縫製の師匠、LIATの福田さんに相談して30Dのナイロン生地からサンプルも作製してもらい、フィールドでのテストを繰り返した。

背面の生地をなくした構造(もうウインド”シェル”とは呼べないかもしれないが)により、腕と頭を通して腰のストラップを止めるだけで着る事ができる。想像していたとおり、脱ぎ着のストレスは通常のウインド”シェル”と比べて驚くほど小さくなった。
背面が開いている事によるメリットはそれだけではなかった。
ランニングでもハイキングでもザックを背負うと背中が蒸れる。なぜなら背中が保温性の高いザックに覆われているからだ。
もし、ウインドシェルを着た上からザックを背負う(もしくはトレイルランナーがよくやるようにザックを背負った上からウインドシェルを着る)と、体の前面や腕にはちょうど良いレヤリングでも背中は汗だらけになる。
しかし、ザックを背負う事を前提とすると「風に当たる体の部分を覆う」というウインドシェルに求められる基本的な機能を満たすために背面の生地は必要ではなくなる。

雨から体を守るレインウェアであれば話は別だが、ウインドシェルは寧ろ背面の生地が無い方が圧倒的に蒸れにくく過ごしやすい。
実際に使ってみてそう確信を得た僕は製品化に向けてディテールの改良を進めた。
寧ろハイキング

このウインドジャケットはトレイルランニングのフィールドから生まれたものだが、サンプルを使い込んでいくうちに、ハイキングにも有効なのではと思うようになっていた。細かいアップダウンを繰り返すようなルートなら尚更だ。
トレイルランで使用する容量が10Lそこそこのザックであれば、オーバーサイズのウインドシェルをザックの上から着るという選択肢がある。また、最初からザックを想定し、背面の生地に余裕を持たせているものもある。
しかし、ハイカーが背負う容量が30Lを超えるようなザックとなるとそれはできない。着たり脱いだりする度にザックを降ろさなければならない事は、足を止めずに歩き続けたいハイカーにとって、とても億劫な作業だ。もちろんウインドシェルを着ると背中は激しく蒸れる。
そのため、このウインドジャケットの背面形状をデザインする際には、ハイキングザックの大きさも考慮し、それらを背負ったまま着用することができるようにした。(全てのハイキングザックで着用できるとは限らないので、ぜひザックを背負った状態で試着してもらいたい)
ストレスの無い脱ぎ着と、背中の蒸れからの解放は一度慣れてしまうともう元には戻れないはずだ。
極薄7D生地でポケットにクシュっと収納

着脱時にザックを降ろさないとなると、収納は当然ザックのポケットへ、となる。ランニングザックであれば複数あるフロントポケットのどれかだろうし、ハイキングザックだとサイドポケットを想定した。
ランニングザックのフロントポケットはそれほど容量が大きくない。可能な限りコンパクトに収納するために、強度と耐風性を備えつつ、できるだけ薄い素材を探した。複数の素材を試し、検討した結果、7Dリップストップナイロン生地を採用することになった。
ポケットへの収納を前提としているため、余計なパーツが必要となるパッカブル仕様にはあえてせず、クシュっと丸めてダイレクトに収納できる潔さを選んだ。

生地は光を透過するほど薄く、重量は50g(Mサイズ)と超軽量。ベースウェイトの増加は最低限に、必要な防風性を持ち歩ける仕上がりとなった。
強風での脱ぎ着を助けるドローコード

前述のトレイルランニングレースでも感じた事だが、ウインドジャケットは、強風で飛ばされないようにしながら脱ぎ着する。この事が脱ぎ着のストレスの一つだったりするので、これを解決するためにジャケットの内側に伸縮性のドローコードを設けた。
このコードをザックの収納ポケット付近に引っ掛けておけば、強風下での着脱でもジャケットが飛ばされる心配がない。
また、着る際の裏表の判別を助けるために、コードを引っ掛けるループを蛍光色にし、視覚的なアクセントとしている。
左右どちらのポケットでも、また、ハイキングザックのサイドポケットであっても、ランニングザックのスナックポケットでもドローコードを使用できるよう、ループは左右の脇腹付近にそれぞれ配置した。
大開口フロントジップでフロントポケットへアクセス

後ろ前で着ていた際の課題だったフロントポケットへのアクセスは、大きく開くフロントジップで解決した。
みぞおちの下付近まで下ろすことができるジッパーによってフラスクの取り出しもストレスなくできるし、風を取り込んでの体温調節の機能も兼ねている。
グローブでも操作しやすい大きめのバックル

動く空気は動かない空気よりも多くの熱の移動を可能にする。風に吹かれると体が冷えるのはこのためだ。
ウインドジャケットを着たいと思う時は寒いと感じている時だ。手は悴んでいるか、もしくはグローブを着用しているかもしれない。そんな状況を想定し、腰の後ろで裾をとめるバックルはあえて大きめな20mm幅のものを選択した。
最終テスト「信越五岳トレイルランニングレース」
9月の連休に開催された信越五岳トレイルランニングレース。僕はこのウインドジャケットをランニングザックのポケットに忍ばせ、無事に100マイルを走り切る事ができた。(とにかく必死だったので一枚も写真を撮っていないのが残念だ。)
昼夜を通して走り続け、天候と気温の変化が大きいこの季節のレース。頻繁なレイヤリング調節が求められる中、少しでも足を止めたくないランナーにとって、ストレスなく、そして素早く脱ぎ着できる事の重要性を改めて実感した。
最後に
Minimal, Unique, Equipment この3つの言葉を合わせて創ったのが「MUNIEQ」
その名のとおり、ミニマルな機能を持つ道具をユニークなデザインで形にして、ユーザーに新しい選択肢を提供する。それがMUNIEQの役目だ。
自分で言うのも何だが、Open-Back Wind Jacketはかなり奇抜な製品だと思う。普通のウインドシェルのように「ちょっとコンビニに行く時に着ていく」なんて普段使いはしにくいだろう。
その代わり、今までのウインドシェルでは得る事ができない、唯一無二な機能を備えている。
多くのハイカーやトレイルランナーにOpen-Back Wind Jacketのメリットを活用してもらって、これまではできなかった歩き方や走り方をしてもらいたい。





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